複雑系との出会い

 複雑系に関する著書は、1990年代の後半から数多く出版され、当方もご多分に漏れず「カオスの出現と消滅」という本を手に入れたが、難しすぎてさっぱりだった。これが複雑系との苦い出会いであった。同時期に、ある電子部品メーカが、カオスチップという「チュア回路をモールドした手のひらサイズの回路チップ(でかすぎ!)を購入し、オシロスコープストレンジアトラクタを観察したが、こちらは当方の好奇心を掻き立てるには十分だった。

 このことがきっかけとなり、ローレンツ、ダフィング、レスラーなど、様々な複雑系モデルの挙動を音に変換したりして、不思議な世界を体感しながら、少しずつ理解を深めていった。これらのモデルは、比較的簡単な連立非線形微分方程式で記述できるものの、その挙動は途轍もなく変化に富んでおり、非常に興味深いものであった。この目新しい仕組みを電子楽器(特にピッチ制御の必要なメロディ系楽器)に応用できるようにするために、「複雑系システムを外部信号による摂動、あるいは自律的な仕組みにより、その挙動を周期状態に引き込ませる技術(JP3459948B2, JP3455004B2など)」を発案した。

 当時、複雑系は研究テーマとして大いに持て囃されたが、テーマアップするもなかなか結実には至らなかったため、次第に下火になっていったのは周知の事実である。しかしながら、最近になって(理由はともかく)また日の目を浴びそうな流れが来ており、新しい時代の幕開けを予感している。昔(燻っていた)ニューラルネットが、ある事をきっかけに一気にAIとして脚光を浴びた如く、複雑系科学も何かのきっかけを掴まないか期待しているところである。

複雑系の書籍