物理モデル音源

 1990年代、日本の電子楽器メーカ数社から、物理モデル音源のシンセサイザーが発売された。それまで主流だった、正弦波合成、FM、PCM音源とは一線を画し、生楽器の物理的な振る舞いを模擬することによって、「動的リアリティ(仮称)」を実現できる画期的な音源であった(引用文献を参照)。絵に例えると、3DCGといったところだろうか。

 特に擦弦楽器や、管楽器などの自励タイプの楽器において、その効果は絶大であり、例えば、管楽器では非線形性を有するリード(含む唇)の振動と、管の共鳴の間に発生する干渉作用によって発生しうる「不規則な変動感」は、生楽器の現象をかなり近似できていた。但し、自励タイプの楽器音を鍵盤タイプのコントローラで演奏する際、多くの操作子を忙しなく動かさねばならない、すなわち演奏が難しいといった課題を含んでおり、物理モデル音源をメジャーに伸し上げるまでには至らなかった。

 (話は変わるが)昔、門外漢の方々に「物理モデル音源」を説明させて頂いく機会があり、その名称に違和感があったのか、腑に落としてもらえないことが多々あった。通常、技術(解決手段)を視点として命名するものであるが、「物理モデル」という言葉が、技術に直接的に対応していないこと、すなわち「モデル化の対象が物理(生楽器)である技術」ということを、枕に踏んでいなかった当方に原因があったのだ(汗)。ともあれ、他の業界に先んじて発明された画期的な技術であることには間違いなかろう。

 今後、物理モデル音源も、3DCGも、誰でも簡単に制御できる(例えば音声やジェスチャなどで表現できる)技術ができれば、更に大きな進歩につながると考えている。

1993年にヤマハ様が発売した世界初の物理モデル音源搭載シンセ