複雑系に秘められた能力

 サウンドには直接関係ないが、周期波形を扱う点で共通している複雑系モデルとして、FitzHugh-Nagumo方程式(以降FHNとする)があり、この単純な式に秘められたすごい能力を紹介する。 さてFHNは、1963年にノーベル医学・生理学賞を受賞したHodgkin-Huxley方程式(以降HHとするをより簡素化した2連立非線形微分方程式である。HHと同様、神経細胞数理モデルであり、ヤリイカの巨大神経軸索が実験対象になったらしい。

 外部から刺激が与えられると、一定レベルの活動電位(パルス)が発生し、その発生タイミングが情報となって、神経線維を通って脳に伝えられる。この活動電位が発生した直後の2~3msecの期間は不応期(参考文献の第22節および図2.2.1参照)と言い、外部からの刺激に反応しない。すなわち、高周波の外部刺激を情報として受け付けないノイズ防止機能が備わっているのである。

 この能力は、例えばAppleWatchなどの生体センシングや、地震予知などの分野にも応用が利くのではなかろうか。また、2連立の微分方程式(=少ない演算量)で記述できるので、エッジコンピューティングなど、低コストが求められる世界で重宝するかもしれない。

 神経のモデリングについては、「神経とシナプスの科学」に詳しく書かれているので一読されることをお勧めする。 

Hodgkin-Huxleyモデルの神経細胞膜の等価回路